「高砂」を終えて

私にとって、能「高砂」を一番全部演じたのは、初めてでした。半能と言って、後半部分だけは(面・装束もつけて)2回程、それも八段ノ舞という小書き付で過去にやったことがあります。でも、高砂というだけでなく、脇能(神能)のシテを勤めたのは生まれて初めての体験でした。これまでに演じてきて能とは違う身体感覚(?)でした。ワキの登場の囃子”真ノ次第”で始まり、シテ登場の”真の一声”、シテとツレの同吟の一セイ、サシ、下歌、上歌そしてワキとの掛け合い、初同、クリ、サシ、クセ、ロンギと、そのカッチリとした戯曲構成もさることながら、何とも言えぬ”神”を演じることの新鮮さ、清々しさ、そして、えも言われぬ緊張の糸、厳かさ、後シテのエネルギーの発露、どこをとっても、”神”であること。いわば何も考える必要がないような、人間でないことの嬉しさ、真っ直ぐでいられることの安心感。言葉にして言うのもおかしいですが、ともかく私にとっては喜びでした。
昨年12月24日におこがましくも披らかせて頂いた大曲”檜垣”とは、本当に対極にあるようなものです。この両方を昨年末と今年はじめてのシテとして手がけさせて頂けたことは、今の私の年齢として本当に有難いことでした。また、どちらも満員のお客様の前で演じることができたことも。

今回、国立能楽堂主催の公演で「高砂」をやらせて頂いたことに心から感謝しています。終わった後の疲れが、それぞれで全く違ったことは面白い経験でした。ご覧くださった方々に厚く御礼申し上げます。

今回の「高砂」を観ての感想の中で「女とか男でない、そこには正しく神がいました。自分もエネルギーをもらったようで元気になれました」「男と女が舞台に一緒にいることに全くなんの違和感も感じませんでした」以上、嬉しいご感想として紹介させていただきます。

この後しばらくは能のシテはありませんが、まずは7月16日の第研5回究公演での「定家」の地謡を作り上げていくことに、今、力を傾けています。私は仕舞で「頼政」を演じます。昔、父に稽古してもらったことを思い出します。大変やりがいのある曲です。詳しい公演情報は、次回改めてご案内できればと思っております。

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